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かえりみすれば
投稿者:さそ(下級職人) 投稿数:50
ジャンル:ほのぼの
点数:17 点
※当作品はアトルガンクエスト『水和ぐ盾』のネタバレを含む内容となっております。ご覧になる際はご注意下さい。













 風が吹く。
 エラジアの夜を冷たく巡り、ヒトの身を切る冬の風。
 皇将の証・アミール装束を我が身にまとい、唯一露出してそれに晒される頬のヒリつくような痛みが、心地良いと思えるようになったのは、一体いつのことだったろう。
 アトルガン皇国、皇都宮廷。
 テラスの柵に一人腰掛け、ミリ・アリアポーは器に注がれた果汁を傾けた。アルコールではないのが我ながら間抜けだが、この国では未成年の飲酒は犯罪だ――元々全く飲めないとしても。
 かなりの広さを持つテラスを隔てて、屋内からは一年の幕引きを祝う宴の華やぎが伝わってくる。宰相ラズファード、ワラーラ寺院老師ナディーユ、無手の傀儡師アフマウ――聖皇自身を除く国家の主立った人間が一堂に会するパーティで、まさか自分がそんな場に“招かれざる客”以外の存在として同席するなど、少し前までは考えもしなかった。
 水蛇将。その名で呼ばれることなど。
「ミリちゃん」
 声をかけられ、ミリは肩越しにそちらを見やった。“風”と“炎”の両将が、連れだってこちらへとやって来る。
「――アヤしいね。お二人さん」
「なっ……」
「あらあら。生意気な口を利くようになって」
 ずざっ!と距離を取るガダラルを無視して、ナジュリスはいつになく陽気に笑った。どうやらほろ酔い気分のようだ。
 ミリはわざとらしく肩をすくめる。
「いやいや、別に悪いとは言ってないよお? どーぞ御勝手にイチャつきゃいいじゃん。ボクはお邪魔みたいだし戻――」
「可愛い子猫が」
 隣にもたれるナジュリスに、阻まれる。
「一人で寂しそうにしてたから。ほっといたら死んじゃうんじゃないかって、ガダラルが」
「言ってねー!」
 紅潮するところを見ると、言ったらしい。まさか口写しではないだろうが、意味としては大体近しいことを。或いはナジュリスのことだから、彼のちょっとした視線の動きから心中を読み取ったのかもしれない。
「……寂しくて死ぬのはウサギね?」
 あら、と首を傾げるナジュリスから、ミリは眼下の皇民街へと視線を戻した。
「それに、ボクは寂しくなんか」
「貴様はいつもそれだ」
「ほんとだよ――うん。ほんとにほんと」
 ほら見て。指をさし促すと、ガダラルも渋々やって来て見下ろした。意識したのか、ミリを挟んでナジュリスと反対側に立つのが笑える。
 ほど近い公園に集ったキキルンたちが、明日から始まる十二年に一度の祭りを前に大いに盛り上がっていた。何故か混ざっているザザーグは、そこにいると完全に岩山である。
「あいつ……」
「いーのかなあれ」
 三人の後方、会場からは、ルガジーンが何やら凄い勢いで熱弁を振るう声が聞こえる。あれは酔っている。滅多に酒を過ごさないため知られていないが、彼の“演説癖”はタチが悪いのだ。例のオートマトンにやられたか――アフマウ、愚かな。
「確かに賑やかね」
「クビになんなきゃね。あの二人が」
 ミリはくいっと果汁をあおった。
 無論、彼らだけではない。イパーフを始めとする水蛇隊。仲良くなった(と認めてやらないこともない)傭兵たち。そして、故国ツァヤの人々。
 こんなにも多くの人に囲まれて、自分はこの年を終えようとしている。それが、何だか儚い幻のように思われて、夜風の冷たさに身を晒したのだった。本物だから身を切られるのだ。現実だから、とても寒いのだ。
「年越し……か」
 キキルンたちを見下ろしながら、ガダラルは「下らん」と腕を組む。
「日が暮れて、夜が明けるだけだ」
「つーまんないなぁガダは」
「そこに何が有る? 星の巡りが一回りして元に戻る日だってなぁ聞いたが、それを合図に変わるものなんざ有りゃしねえ。春にもならなきゃ、腹もふくれねえ。戦だって終わりやしねえぞ。だってのにこうも毎回毎回浮かれなきゃならねえ理由は何だ?」
「――誰かに感謝出来る」
 東部の羅刹が、声を留めた。
 向けられた眼を横顔に受け、ミリは夜空を見渡した。夜。けれど闇ではなかった。星々が、ヒトの明かりが、世界を照らし出してくれている。逃れることなく、自分もそれを浴びられる。
「いっぱい、色んなことが有るじゃん。色んなものが変わってくじゃん。いちいち頭下げてちゃキリないことにさ、まとめて感謝する日なんだよ。きっと」
 言いながら、幾つものかんばせをミリは目蓋の裏に浮かべた。
 止まらずに続く毎日の中で、気づけなかった優しさが有る。忘れ、取りこぼしてしまったことが沢山有る。ひとつひとつには無理だから、歩いてきた道を振り返り、全てにありがとうを言うための日が有っていい。
「色んな……例えば?」
「例えばぁ!?」
 呆れるように噴きだした。
「ミリ・アリアポーにそれは無いでしょー!」
「――そうね」
 くすくすと、ナジュリスは器を口に運んでいる。
「大変だったものね――でもミリちゃんはきちんと乗り越えた。女神様も喜ぶわ」
「ん…」
 言われ。
 少しだけ、ミリは言葉に詰まった。
 アトルガンは聖皇崇拝の国。それ以外の信仰は異端とされ、一切の宗教的活動には重い“処罰”が下される。五蛇将だけが知る事実――水蛇将ミリ・アリアポーが密かに抱くアルタナ信仰は、犯すべからざる大罪だった。
「あ」
 失言に気づいたナジュリスが、後悔したようにこちらを見上げた。大丈夫大丈夫、と浮かべた笑顔は、流石に弱々しかったかもしれない。
「ご、ごめんなさい。私」
「大丈夫だって――気ィ遣うのやめてよ」
 拒否するように、ミリは両手を広げてみせた。他の誰ならともかく、彼女たちに信仰のことに触れられて怯むのは自分の弱さだとよく知っている。
 南方国家の御多分に漏れず精霊信仰(アニミズム)の盛んなツァヤにあって、彼女の母は珍しくアルタナ神を祀っていた。リビングに据えられた小さな神像。毎朝祈りを捧げる母の声。決して償えない罪を犯し、遠く離れたあの温かい家庭と繋がる細い細い糸が、信仰だ。未練と呼ぶなら――呼ぶことも出来る。
 聖皇暗殺未遂。異端信仰。これだけのものを腹中に抱えて、背には祖国の期待を担う。自らのあまりの卑劣さに怯え、震えながら過ごす夜の恐怖を、ミリは誰にも打ち明けていない。「おねぇ」と呼び慕うナジュリスにさえ。
 だって、乗り越えたと思ってほしいから。肩で風を切って、いつでも凛としていると思って欲しいから。
「……前見てるだけで充分だ」
 ガダラルの言葉に、はっとする。
 暗澹としかけた胸中を知らず、男は不満げにボヤいているだけのようだった。
 けれど。
「問題なんざいつでも山積みよ。そいつと向き合う。焼き払う。他に何が要るってぇんだ?」
「ガダ……」
「んだよ」
「チャーハンが走ってる」
「何ィィィィィッ!?」
 指差した先に体ごと振り向くガダラルを、ミリは後ろからどつき倒した。
「ぐお!?」
 したたかに顔を床に打ち付け、ぐぁばと起きあがったとき、ミリは既にそっぽを向いていた。
「何しやがる!」
「あっちだったっけ……」
「おいッ!」
 ぎゃいぎゃいとわめくガダラルには、堪えかね漏れた声の震えは、どうやら気づかれなかったようだ。
(ミリ……)
(しーっ)
 無理矢理いたずらっぽく笑って、見上げるナジュリスに指を立ててみせる。
 その頬に、一筋涙が流れた。
(これでおねぇにバレちゃった)
 あくまでガダラルには気づかれないよう、拭わない頬がみるみる濡れていくのがわかる。
 タイミングの良すぎるガダラルの言葉。まったく、デリカシーの欠片も無いくせによりにもよってなんでこんな時。神の悪戯だとしたら、あのひとはヒマを持て余しすぎている。
「ミリ、えっと」
「いーの」
 言いかけるナジュリスに、ミリはふるふると首を振る。笑顔はもう、自然と浮かんできてくれた。
「ありがと、おねぇ。おねぇが言ってくれたからだよ?」
「何の話だ!?」
「うっさい、バーカ!」
 回り込んできたガダラルを避けて、柵からばっと跳び下りる。無謀にも追いかけてくる羅刹と、暫く鬼ごっこをすることになりそうだ。もっとも、捕まるわけが無いし、万一そうなったところで絶対に感謝などしてやらない。女の子を泣かせるということは、異端信仰よりよっぽど罪が重いのだ。
 古代魔法の撃ち納めとばかり詠唱を始めたガダラルの頭を、ナジュリスの鏑矢が見事に撃ち抜いた。
 ――既視感。

 良いお年を。
投稿日時:2007-12-31 22:25:36
(表示:1-4) 1 
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[004] 感想記事の投稿失礼致します。
投稿者:JR(名取) 投稿数:96
 いいぞぉ、ガダラルゥ!!
 相変わらず人物像の描写がとてもお上手ですね。登場人物の魅力がとても伝わってきました。ガダラルとミリのやり取りが実に微笑ましかったです。
 確かに巷ではツンデレやボクッ娘としての認識というか呼び声が高い(自身も見事にそちら側としての認識しかなかったわけですが;)彼女の新たな一面といいますか、違った視点で見れたような気がしました。
 次回作の方も楽しみに待ち焦がれております^^
点数:8 点
投稿日時:2008-01-05 03:13:53
[003] 本年もどーぞよろしく
投稿者:さそ(下級職人) 投稿数:50
お願い申し上げます(拝礼)。
べ、別に「おねぇ」呼びさせたかったワケjry
二人が並べば自然と呼ぶかと思ったんですが、結局最終盤まで出てこなかったことに自分でも笑ってみる。
とかくあのネコに関しては、言外に語られていると思われる部分が多過ぎて、あれこれ勝手に考えてしまうわけであります。取り敢えず私の脳内で確定しているのは「ミリ・アリアポーはツンデレではない」とゆーことですかねい。

FFXI今年最大の注目事項は個人的にガダクエ&五蛇将クエ総括エピソードの実装と断言してしまうのですが、その折には是非らせつwでも調理将でもなく、『羅刹』ガダラルの活躍をお願いしたいところです。てか、ミリにしてもそうですが人間は一面的じゃないんだから三つとも網羅したって良し。ド派手な花火と早期実装に期待大。
点数:0 点
投稿日時:2008-01-04 00:45:41
[002] 今年もよろしくです
投稿者:Bandit(目録) 投稿数:137
ミリに「おねぇ」と言わせたかった、その意気や良し(笑)。
ツンデレとかボクっ娘とかはともかく、何だかんだで設定というか背景に一番味があるのはあのミスラではなかろうかと思ったり思わなかったり。
あとナジュとガダはヒューム同士で意外と仲良しかもしれない。年末年始のちょっと改まった空気の中、ミリの姉貴・兄貴分という雰囲気もよく出ていたと思います。兄貴の方はやや微妙ですがw

何しろ今年は調理将にも一花咲かせて(ネタを提供して)頂きたいものですな。彼も頑張れば出来る子(笑)。
点数:9 点
投稿日時:2008-01-03 14:01:46
[001] 年賀状ならぬ
投稿者:さそ(下級職人) 投稿数:50
連載完結の感謝を込めて。今回については、変な製作裏話や言い訳は無し!(笑)

ご覧頂いた方。温かい感想を下さった方。そして、当掲示板を通じて巡り会えた素晴らしい作品とその作者様たちに。
今年一年本当に有り難う御座いました。
来年もまた、次回作にてお目にかかれればと思います。その折は、どうか宜しくお願い致します。
点数:0 点
投稿日時:2007-12-31 22:34:13
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