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ウォ〜マ〜さんによろしく(JRという男の妄想による活劇戯曲) 第6試合
投稿者:JR(名取) 投稿数:96
ジャンル:その他
点数:8 点
 接近する足音。その数が三つより二つへ減数した事も、その正体も、“彼ら”は知っている。“彼ら”とは、観戦室で試合の様子を眺めていた選手達である。逸る気持ちを抑えられないのだろう。その内の数名はドアへ向き、表情を輝かせていた。まるで、サンタの到着を待ち侘びる子供のようだ。
 そのドアの前で足音が停止する。サンタさんのご到着だ。更に瞳を輝かせる者、振り返る者、まだ窓の外を眺めている者、それぞれの反応で彼を出迎える。ドアが開く。同時にサンタの声が、室内を渡った。
「はあい、それじゃあ次の試合に出場する選手を発表しまあす――」
 入室したのは、やはり二つの人影であった。サンタと“おとぎの国”の勝者である。サンタは、Bブロックの担当役員であるヒューム族の青年、“おとぎの国”の勝者は、ガルカ族であった。疲労を表情へ浮かべるガルカ族が、ドアの傍らへ足を向ける。備え付けの機械の前で足を止めた。クリスタルで浄水された飲み水を、無料で供給してくれるものだ。ボタンを押す。担当役員の言葉は続いていた。
「――105番ガトゥ・ゼル選手う。647番グレーティア・キール選手う」
 返答を遣したのは、後者のグレーティアのみであった。腰にぶら提げたポーチへ片手を忍ばせるグレーティア。直ぐに引き出して、瞳を泳がす。そこには端正な顔立ちをした青年の横顔。相手も瞳を遣している。瞳の色は柔らかい。色素では無く、表情だ。緊張感は無く、微笑んでいるようでもあった。
 ガトゥは、それから直ぐに視線を逸らして歩み出す。それを瞳で追うグレーティア。彼女が先程ポーチから取り出したのは、ゴムであった。手馴れた手付きで、背面を流れる紅茶色の長髪を結う。終えるとガトゥに遅れて歩み出した。
 数歩先にいるそのシルエットは、同族のもの。亜麻色の長髪が目を引く。テンプルシリーズを纏っている事から、職業(ジョブ)はモンクであると判断出来た。体格は、ヒューム族の一般成年男性のそれである。特別長身でも小躯なわけでもないし、恰幅でも痩身なわけでもない。
 グレーティアはそこまで観察して、瞳を前方へ直した。供給された瓶を口に含んだガルカ族と擦れ違う。ガルカ族の瞳が、ちらりと泳いだ。
 頃合を見て担当役員が踵を返す。そのまま歩み出した。ガトゥ、そしてグレーティアもそれに続いてドアを潜る。
 丁度グレーティアがドアを潜る頃、彼女と擦れ違ったガルカ族は、彼女が観戦していた辺りで足を止めていた。
「あんたの次の対戦相手はどちらになりそうだい?」
 競馬の勝ち馬を訊ねるような軽い調子。ガルカ族が瞳を遣す。そこに居たのはエルヴァーン族の青年。ガゼルである。既にリングへ顔を落としていた。瞳はサングラスの奥。表情を読み取れない――が、口元だけで十分のようだ。笑んでいる。悠然と。未だに疲労の様子を窺わせるガルカ族は、直ぐに瞳を戻して口を開いた。
「判っていることを聞いてどうする」
 ガゼルの笑みが深くなった。その返答は曖昧だ。が、ガゼルはそれを彼の“応え”だと確信していた。どうやら予想は一致しているようだ。尤も、それは彼の勝手な解釈でしか在り得ないわけだが。
「そりゃ失礼」
 おどけた調子でガゼルが言う。それで二人の会話は終了した。再び瓶を口に含むガルカ族。彼は擦れ違い様に思った。そしてガゼルは、相手の瞳を見た瞬間に確信した。勝者はグレーティア・キールであると。思ったと確信したの違いはこうだ。
 ガルカ族は、視線を一瞬泳がしただけだ。特に観察したわけでもないし、ましてや相手の事は視界にすら入ってない。だがその実で、彼女は視界に入ると同時に思考が反射した。瞳は泳がしたのではなく、無意識に泳いでいたのである。それは波紋一つ描かない水面のように明澄で、天空を突き刺す山のように聳立していた。多くの人間と出逢って来たが、見事な集中力である。“適度な緊張感”と俗称される精神状態を、見事に備え付けているのだ。無駄な力が入っていない、つまりリラックスしている状態と同一だ。故にガルカ族はそう思った。
 ガゼルは、一度彼女と銃口を向き合わせた事がある。真っ直ぐな瞳であった。怯臆も、迷いも無い。彼女のメンタルの強さは熟知しているつもりだ。それを踏まえた上で、対戦相手である男の瞳を見た瞬間に確信した。サングラスをかけていると、相手から瞳を読まれないが、こちらからも読み難いというリスクがある。が、それでも彼の表情は見て取れた。悠長な侮り。ティアも知覚したはずだ。あの男、痛い目見るぞ。
 ぞろぞろと、他の選手達も窓へ心身(からだ)を向ける。去ってしまった三人の足音は、既に聞こえなくなっていた――――。

◇  ◇  ◇

 選手の二人が入場すると、観客達のボルテージは更に高まった。その一つに、一際大きな黄色い歓声があった。
「がぁんばれぇえー! ティアァァアーーー!!」
 声の主はミスラ族。ティア――グレーティアを略称する辺り、彼女と親交のある人物であるようだ。彼女の名はノノ。グレーティアの弾薬製造を一手に担う、ウィンダスの鍛冶職人である。ノノが呆れ顔で隣人を向いた。口を開く。
「もおぅ、エリクスももっと声出して応援しなよぉ! ティアが負けちゃったらエリクスのせいだぞ!」
「そんな滅茶苦茶な」
 苦笑を浮かべて彼女へ返答を遣したのは、ヒューム族の青年であった。黒い短髪に双眸。優しく、柔和な印象を与える顔立ちをしている。ノノの癇癪は収まらないようだ。
「にゅぅ、何その態度!! ティアがこれから頑張ろうってのにさ!」
「そりゃあ勿論、ティアには頑張って欲しいけれど――」
 エリクスが、リング上のグレーティアへ瞳を馳せる。ノノも釣られて瞳を向けた。微笑むエリクス。その表情は、彼の印象のままに柔らかく、優しい。
「僕には見守るくらいの事しか出来ないから――」
 ノノははっとした。エリクスへ瞳を戻す。そうだ、彼が心配していないはずなんてない。きっと誰よりも、この自分なんかよりも、心配で心配で堪らないはずだ。それでもこんな風に言えるのは、どこかで確りと信頼しているからだ。誰よりも彼女のことを信頼しているからなのだ。
 ノノは顔が火照るのを自覚した。照れくさいような、悔しいような。正体の知れない物が、心内をもやもやと徘徊している。それがもどかしくて、ノノは腕を伸ばした。行方はエリクス。柔和に微笑む、その片方。ノノは思う。でも――。
「でも、やっぱしむかつく」
 的(ターゲット)を掴んでやると、そのままぐいと、抓るように引っ張った。当のエリクスはいい迷惑である。「いてて」と漏らしながら、顔を歪める。
 気が済んだのか、再度リング上へ向き直るノノ。くそぉ、私だってティアの事がエリクスに負けないくらい大っっ好きなんだから!! 大きく息を吸い込む。先程よりも更に大きな声で応援を始めた。
 災難が終わったエリクスは、頬をさすって苦笑を浮かべている。視線の行方はノノ。その表情は、やはり優しく柔らかだ。その頃リング上の二人は、踵を返し、対峙しようとしていた。

 うはあ、やっぱり生(こっち)はすげえなあ。ガトゥは思考しながら行方を進めていた。期待、発奮、枯渇、不安。具現化した幾許もの思念達。数えるだけで気が遠くなる、観戦室で窓越しに知覚していたそれらが、確かに今、この躯を震わせている。
 踵を返すガトゥ。対戦者が改めて視界に入る。先程とどこも変化は無い。ハンターシリーズに身を包む、華奢な少女だ。
 構えを取る。体躯の向きは右半身。右腕は、そのままぶら提げるように下方で固定。左腕は、傾けた体躯の奥で得物を狙っている。ガトゥは再度思考した。
 相手は狩人。しかもあの体格(なり)だ。注意が必要なのは速射と開始際の一発。彼女がトリガーを引くのよりも速く駆けて、間合いに入れちまえば、こっちのもんだ。一発入れて態勢を崩す、二撃目で止め。これで終わりだ。毛皮三つ集めるのよりも簡単な話さ。
 口元が曲がった。緩やかに。表現するには余りにも僅かな表情。双眸の最中には悠然、そして、観客達からもらった興奮が居座っている。後は合図を待つばかりだ――――。
 ここで少しだけ話を遡ろう。視点は彼の言う対戦者である。

 観客達の歓声で沸くリングの上を、何とない歩調で行くグレーティア。その表情は動かない。集中しているのだ。能面のように固定した表情の奥で、意志を凝固させている。自身の内に燈った灯火を、捲り立てる暴風へ晒さないように。
 踵を返す。相手は既に構えていた。肩幅程に足を開く。僅かに腰を下ろし、双手がそっと移行した。行方は腰元に佩いた得物。右手はグリップとトリガー。左手はその右手を包むように。
 双眸を睇視する。前方の相手へ更に意識を集中する。相手はモンク。勝負は一瞬。それを逃せば勝機は無い。
 大会役員のタルタル族が、リング上を歩む。足を止めると、互いの顔を見合わせた。前方を向き、右手をそっと差し出す。そして、Bブロック一回戦四度目になる舞台の幕が、切って下ろされた。
「始め!!」
 タルタル族が飛び退く。が、その前を滑る選手の姿は無かった。仕掛けずにその場へ留まったガトゥ。抜き放った拳銃を、撃たずに構えを取ったグレーティア。
 ガトゥは想定外の展開に困惑した。瞳を細める。僅かに笑んでいた口元を結んだ。やはり、笑んだその時と同様に。表現するには、余りにも僅かな変化だ。撃って、こない――?  構えを取ったまま動く様子を見せない対峙者。腕を畳み、体躯へ密着させている。銃口は、彼女の顔の隣で自身では無く、上方を向いていた。
 結んだ口元が再度笑む。くどいようだが、やはり同様に。しかし、撃ってこないというのなら好都合だ。モンクの俺に接近戦で挑もうってのか。面白い。左足が地面を摺る。僅かに右方へ。そのまま右側へ倒れるように駆け出した。
 動いた。グレーティアの瞳がそれを追う。右方へ軌道を取ったガトゥ。体勢を低くして、そのまま緩やかな弧を描くように間合いを詰める。依然追跡の様相を崩さないグレーティア。その様はまるで監視カメラだ。まだ動かない。彼女のいう“勝負の瞬間”はこの過程ではない。
 ぐいぐいと迫るガトゥ。二人の間合いがいよいよ狭まる。ガトゥが左足を踏み込むのと、グレーティアが畳んでいた双腕を伸長したのは、ほぼ同時のことであった。上の“勝負の瞬間”とは、無謀にもこの一瞬であったのだ。
 来た。そう思考するのと同時に、グレーティアはイーグルアイを発動させた。クリアになる思考。集中力が研ぎ澄まされる。彼女が銃口を向けた先は、対戦者の男では無い。その顔面の脇であった。意識は未だに彼の挙動を注視している。
 なっ!? ガトゥの心内へ焦燥が閃く。が、構わずに身体を遣した。気勢は死んでいない。小さなモーションで右腕を放る。その刹那、彼女がトリガーを引いた。銃声が爆ぜる。くしゃりと表情を潰すガトゥ。思考も同様に潰れてしまったのか。挙動が一瞬停止する。
 一方のグレーティアは、弾丸――はたまた弓矢のように迫る拳打を、僅かに身体を逸らし、頭を倒して躱した。一仕事終えた拳銃は、反動で元の位置に収まっている。が、その仕事は多忙だ。もう一仕事。それが、主人を勝利へ導く自身の使命だ。その行方は――――。

◇  ◇  ◇

 カチャ。乾いた音が、彼の額の寸前で停止した。ぽかんとした表情のガトゥ。思考が急にクリアになった。否。空っぽになったのだ。硝煙を吹かす銃口。その奥で少女の視線が、真っ直ぐ自身を突き刺している。彼女の腹部へ突き出そうとしていた左腕は、すっかり行き所を失い、主人と同様にぽかんとしていた。

 負け、た――?

 勝負の決定的な瞬間へ、更に昂ぶる歓声。しかし、奮えない。彼の心も、体も。余白ばかりになった心身(彼)の最中を、回顧が脈流する。
 『ハンターシリーズに身を包む、華奢な少女だ』『相手は狩人。しかもあの体格(なり)だ』『注意が必要なのは速射と開始際の一発』『トリガーを引くのよりも速く駆けて、間合いに入れちまえばこっちのもんだ』『一発入れて態勢を崩す、二撃目で止め。これで終わりだ』

『毛皮三つ集めるのよりも簡単な話さ』―――――――。

 他のあらゆる一切を追い立てて、巡る思考。まるで鎖に繋がれ、追咎されているようだ。侮っていた。言い逃れなぞ出来ない。体格だけ見て観察を済ませ、勝ったつもりでいた。だが、実際はどうだ。突き立てられた現実はどうだ。寧ろ負けていたのは俺の方ではないのか。ちらりと瞳を合わせただけのあの瞬間から、俺は負けていたのではないか――。
 何にせよ――。ガトゥはちらりと瞳を落とす。その行方は自身の左腕。忠犬のように、こちらの合図を待っていた。つうと瞳を細める。止まっちまった。びびってこいつを突き出せなかった。俺の負けだ。
 ガトゥの表情が綻んだ。戸惑うグレーティア。が、対峙するヒューム族の表情から、闘志は知覚出来ない。何だか、重い荷物を肩から降ろしたような、軽やかな調子に見て取れた。回顧という呪縛から逃れたのだ。自嘲と諦念がガトゥの心内へ漂い、歓声が滲んでいく。変調しないまま両手を上げた。
「ギブアップ」
 表情と変わらない調子でガトゥ。グレーティアの表情が一瞬弾む。それは唖然とも歓喜とも取る事が出来た。静かに長息を吐く。その表情には疲労と安堵。拳銃をバックルへ収める。
 グレーティアの名が、勝者として宣言された。
「君、冒険者かい?」
「え、ええ」
 ガトゥの不意な質問へ、表情をはっとさせるグレーティア。照れ隠しか。苦笑しながら返答する。
「だったら、今度是非一緒に頼むよ。君とならいい経験稼ぎになりそうだ」
「ええ、是非」
 手を差し伸べるガトゥ。グレーティアもそれへ応える。かくしてBブロック一回戦、四度目の幕が閉じた。

◇  ◇  ◇

 ところでではあるが、ここでこのBブロックにおいて、観客達から最も注目と歓声を浴びる事になる、四人の選手を紹介しよう。事実この四人は、本戦へ進出するための決勝戦で、それぞれ決闘することになる。
 まずは二人。第一試合の勝者イーグル・アイ。そして、つい先程勝利を収めたグレーティア・キールである。そして三人目は――。

「おめでとう、お疲れさん」
 ガゼル・エンキドゥ。その人だ。再度自身の隣へ帰ってきたグレーティア・キールを、慰労と祝言で迎える。ガルカ族は、彼女が勝利したと認めるや、席を外していた。グレーティアは、にこりと微笑み「ありがとうございます」と軽く頭を下げる。
「――ガゼル・エンキドゥ選手う。821番ゼア・R・ステイダート選手う」
 「おっ」と、ガゼルが声を挙げる。窓ガラスに預けていた体を起こした。
「漸く俺の出番か」
 そう言葉を残して歩み出す。やはりサングラスの奥にある瞳は覗けなかったが、口元には常況の笑みが浮かんでいる。ゆったりとした、悠然とした笑みだ。
 それへ僅かに遅れて陰が動き始めた。グレーティアの瞳が泳ぐ。エルヴァーン族。同業者(狩人)であろうか。弓と矢筒を背負っている。ガゼルとよく似た、真朱(まっか)な色の長髪が目を惹いた。男性であろうか。背丈はガゼルと殆ど変わらなく見える。
 一方、先に担当役員の元まで歩み寄ったガゼルが踵を返す。やはり、対戦相手であるゼアの正体はご同輩であった。エルヴァーン族。男性。狩人。年頃まで一緒である。狭めた瞳でガゼルを睨み据えている。
 「よろしく」と手を差し伸べるガゼル。だが、それを迎える手は返ってこない。依然じとりとガゼルを睨んでいる。苦笑いを浮かべるガゼルを他所に、担当役員が踵を返す。続くゼア。参ったな。未だに苦笑を浮かべるガゼルが最後に続いた。

◇  ◇  ◇

 アリーナへ続く一本道。担当役員、そして二人のエルヴァーン族が、沈黙に抱かれて行方を進める。中程まで歩んだ辺りか、その沈黙を意外な人物が割いた。
「ヒューム族のおもちゃなんぞ腰にぶら提げて、エルヴァーン族の風上にもおけない奴だな」
 ガゼルが表情をはっとさせる。前を歩く背面から言葉が投げられるとは、思いもよらなかったのだ。抑揚の乏しい低い声色。先頭を歩く担当役員も、二人の会話に興味があるようだ。耳を二人の会話へ傾ける。
 成程――。ガゼルの口元がゆったりと曲がった。こいつ“典型的”なエルヴァーン族か。それで俺の事を気に食わないってわけだ。しかし、俺に挑発するとはいい度胸だな。
「そうかい? これがまた使ってみると便利でいいもんだぜ」
 「それに――」ガゼルの口角が更に深まる。口を開いた。
「――そのエルヴァーンに、どこぞのエルヴァーン様は、これからこてんぱんにのされる事になるしな」
 ゼアが立ち止まる。ガゼルもそれへ倣った。狭めていた瞳を更に睇視するゼア。じっくりと振り返る。戯言を吐いたエルヴァーン族が映る。笑っている。同輩とも思いたくない。振り返るのと同じ速度で口を開いた。
「今の言葉忘れるなよ」
「ああ、あんたもな」
 変調しない声色で告げるゼア。ガゼルも様子を変えずに応えた。お先に行方を伸ばしていた担当役員が足を止める。
「続きはあっちでどうぞお。お二人さんともご武運をぉ」
 ゼアが無言で振り返る。歩行を再開した。それへ続くガゼル。二人はアリーナへと行方を伸ばした。

◇  ◇  ◇

 二人を出迎えたのは、眩暈を起こしそうな喝采と白い闇であった。ゼアは右へ、ガゼルは左へそれぞれ行方を折る。
 二人ともほぼ同時に踵を返した。視線が交錯する。とは言っても、ゼアからしてみれば、対峙する男はサングラスを掛けており、その表情は窺い知れないわけであるが。
 だが、ゼアにとってはそれでも十分であった。眼前の愚人について、ある程度の観察を済ませていたからである。愚人の正体は風だ。自由気ままにそよぐ風である。同輩であるようだが、先入観で応じるのは危険であろう。規格という枠組みより逸れているのだ。種族としても、狩人としても。
 ――しかし。ゼアが狭めていた瞳を更に細めた。誇りを捨てた愚かなる輩に、私は劣らない。左足を摺るように後方へ逸らす。左方へ開いた体躯を前傾へ倒した。右腕が背負っていた弓を取り、ぶら下げる。左腕は、矢筒へと伸びた。矢羽を掴む。

 一方のガゼルも、踵を返すのと同時に構えを取っていた。肩幅程度に開いた足。僅かに前方へ預けた重心。双手の行方は、腰の同方へぶら下がった得物である。
 ガゼルは眼前の男を氷だと解釈していた。洗練された集中力。それは一本の氷柱である。冷徹にして鋭利。触れようとする者を、その躯で拒絶する一途な感覚。そんな物があの男の中には収まっている。
 リング上のタルタル役員が、互いの顔を見遣る。右手を差し上げ、開戦を告げた。
「始め!」
 タルタル族が飛び退くのと、彼等が動くのはほぼ同時であった。ぶら下げていた右腕を正面に正すゼア。二丁の拳銃をバックルより抜き放ち、駆けるガゼル。
 ガゼルの拳銃が、獲物に口を向けるのよりも早く、ゼアの矢が、彼へ鏃(やじり)を向けていた。緩急、高低、それぞれ違えた五本の矢が、風を割く。
 しかし、ガゼルへ動揺の色彩は伺えない。減速せずに疾駆する。その行方にはゼアの放った五本の矢。結果は想定せずとも判ることだ。観客達と、再び五本の矢を構えるゼアが、その挙動へ目を見張る。
 ぱあん。乾いた銃声が断続的に後続する。計五回。ゼアの放った矢と同数だ。硝煙を吹かすのは片割れのみである。右手に持つオートマタイプ、通称「ドゥルガ」。彼を守護する戦乙女が、伴侶の軌道を開く。
 やはり、規格外だ。内心で改めて分析するゼア。再び五本の矢を放った。ガゼルの反応は回避でも防御でもない。突破である。向かってくる鏃の包囲網を、自身の得物で打破したのだ。観客達の歓声がどっと沸く最中、ガゼルの軌道は変わらない。“矢面”堂々。
 次の五本も、結果に変化はなかった。右手のドゥルガが、ゼアの爪牙を防ぐ。それでも執念深く、矢の雨は止まらない。ゼアにもまた、動揺の色は伺えなかった。幾ら打ち落とされようとも、矢数は減数することを知らない。
 どれ程この攻防が続いたのであろう。云十という矢弾が大地に伏している。また五本の矢と5発の弾丸が、無残にその骸を晒そうとした瞬間であった。ガゼルの足が停止する。否、制止させられたのだ。サングラスの奥で表情をはっとさせるガゼル。顔を落とす。自身の影に、ゼアの矢が、一本突き立てられていた。影縫いである。間合いにして約五メートル。
 あいたあ。ガゼルは、しまったとばかりに表情を曇らせる。が、直様に表情を緊束して正視した。矢音を立てて再度五本の矢が迫る。その進入をドゥルガが拒んだ。
 と、それの来襲をガゼルは感知した。五本の矢から僅かに遅れて現れたそれは、暴威と唸り声を纏って、ターゲット(彼)へ、迷わず猛進する。今まで彼が打ち放った幾数もの矢と、見目は何一つ変容ない。だが、自身へ肉迫するそれは正にミサイル。精霊の加護と、並々ならぬ集中力を以って放たれたWS「サイドワインダー」。
 左腕を畳み、照門を下腹部に当てるガゼル。左手に持つ、リボルバータイプ「ヘキサ」へ意識を集中させる。閃く程の速度で精霊達を掻き集める。彼の回避手段は変わらない。暴力には暴力を。同等以上の強大な暴威を打ち当てて相殺するのだ。
 腹筋に力を込める。ヘキサが爆ぜた。一連の動作を呼吸一つの内に。実弾の規格を超過した幻影の弾丸「スラッグショット」である。ゼアの放った鏃に、壮絶な頭突きを打ち当てた。互いの武器に加護を与えた暴威(精霊)が、相殺しあう。
 その様へ、観客達と同様に目を見張る必要は、両者共に無い。手馴れた手付きで二弾目の準備を済ませ、射撃体勢を取ったガゼル。が、どうやら思惑は重なっていたようだ。先手を取ったゼアの四本の矢が、ガゼルの四肢を刺した。
 ガゼルがくしゃりと表情を潰す。痛覚が不快な感覚を引き連れて、血流を閃いた。脳天へ到達したそれは、霧状へ全身に拡散する。そこで始めてその“不快な感覚”の正体を知覚した。麻痺。鏃へ仕込んでいたのだ。
 それを麻痺だと悟る直前にかろうじてトリガーを引いたガゼル。しかし、そんなものの的になってくれる程、ゼアという人物は善良でなければ、生温くない。弾道は空しく彼の脇を貫穿した。
 射抜かれた四肢を痺れが侵す。筋力が浚われてしまったようだ。宙へ派手に放られる左腕。だらりと体躯の脇に垂れる右腕。銃撃の衝撃を制止できずに、一つよろめく――と、その直前である。彼はそこへアクセスした。自身の心内に隠した、狂的に滾る焔へ。
 抑制する蓋を退かす。すると、刹那に焔は血脈を閃いて全身を焼く。脳天に到着すると、異常な高揚感が脳内へ蔓延する。狩人であるこの男は、戦士のアビリティである「バーサク」を使用してみせたのだ。
 ゼアは、止めにと既に矢を放っていた。最初から変わらない、緩急、高低を違えた五本の矢。つうと瞳を細める。そのまま崩落するはずである男の躯は、その場に立ち止まり、彼を射抜くはずであった五本の矢は、打ち落とされた。
 自身を蝕んでいた痺れなぞ、すっかり忘れてしまったのであろう。ガゼルは四肢の筋力を復活させていた。相殺したのは五発の弾丸。右方の盾、戦乙女「ドゥルガ」。
 なぜ――? 爆ぜる歓声の最中、思考の片隅に浮かべながらも、構わずに矢筒へ腕を伸ばすゼア。が、今度はガゼルが先手を取っていた。ドゥルガの弾丸が矢筒を射抜く。ゼアは、対峙者が口を開くのを呆然と見詰めていた。
「どうする? まだやるかい、大将」
 こちらを睨むヘキサの銃口。ゆったりと笑む男の口元。ゼアはまだ呆然としていた。否、愕然としていたのかもしれない。負けた。劣っていた。私は、このふざけた男へ翻弄され、敗北した。今の彼にとって、思考は呪詛でしかなかった。巡るばかりで、良い結果を齎しはしない。吐き捨てられるのは、突き立てられた現実だけだ。
 ゼアから表情が抜け落ちる。否、戻ったと描写すべきか。構えを崩し、体躯を正面へ開く。そして口を開いた。
「降参だ」
 それだけ告げて彼は振り返る。彼を挑発した時と変調しない、抑揚の乏しい低調な口調であった。何とない調子で歩み去るゼア。タルタル族の役員は、驚いた様子で彼へ顔を遣る。変調しないまま勝者を向いて、宣言した。
「し、勝者ガゼル・エンキドゥ選手!!」
 歓声がどっと沸いて、正に爆発した。銃を下ろすガゼル。バックルの手前でくるりと一回転。そのまま収める。さっと腕を上げて、歩み始めた。
 持ち上げたのは左腕。右腕はポーチへ潜る。取り出したのは小瓶であった。中には緑色の液体が入っている。器用に片手で蓋を開けると、ぐいと一口で飲み干した。はあ。一息ついて小瓶をポーチの最中へ戻すのと、担当役員が口を開いたのは、ほぼ同時の事であった。
「お疲れさあん。随分と不器用な戦い方するんですねえ」
 こいつの調子も変わらないな。ガゼルは歩きながらそう思考していた。初めて彼の声を聞いた時からこの瞬間まで、まるで変調しない。間延びした、軽やかな声色。
「でも、一番沸かせただろ?」
 「はん」と噴出す担当役員。滑稽だという嘲笑では無く、愉快だという微笑。
 かくいうガゼルにも変調は窺えない。流れること川の如し。動かざること山の如し。悠然とした姿勢。これがこの男のスタイルだ。
 歩みを止めずに、右手を再度ポーチへ突っ込むガゼル。取り出したのは煙草である。咥え、次に取り出したジッポで火を点ける。担当役員をそのまま横切り、吹かした所で口を開いた。やはり歩みは止めないで。
「ところで、万能薬持っていないか? 持ち合わせを切らしちまって」
「だったら上の浄水をどうぞお――」
 踵を返しながら担当役員。その口元にはゆったりとした笑みが浮かんでいる。眼前の背中を眺めながら言葉を続けた。
「脂(やに)の臭いまできれいさっぱり洗い流してくれますよお」
 前の背中がひくりと笑った。やはり、歩みを止めないまま――――。

◇  ◇  ◇

 これで上記のうち三人の紹介を済ませた。残るはあと一人である。その一人は、一回戦の最終試合で姿を現すことになる。話しは担当役員が勝者を引き連れて、観戦室のドアを開くところまで移行する――。

「はあい、それじゃあ次の試合に出場する選手を発表しますよお――」
 独特の語調と一緒に姿を現した担当役員。勝者であるヒューム族の初老の男性は、彼を横切って歩行を進める。エボガーシリーズを纏った小柄な男性は、窓辺で足を止めると、ほっと一息吐き、腰を下ろした。担当役員の話は続いている。
「――521番ヘラクレーン・ジオラーツ選手う。458番ブレイズ・フレイム選手う」
 「おお!」とガルカ族が勝鬨のような大きな返事を遣した。成程、声量に相応しい大男だ。恰幅が良く、大柄なガルカ族の中でもとりわけ巨大な体躯。その背中では、身の丈に届きそうな大きな戦斧が、誇らしげにふんぞり返っている。
 典型的なパワータイプの戦士。アレスシリーズを纏っている事から、可也の手練れである事が窺い知れる。歩く度に、巨躯へ似合った足音に金属音が絡まっていた。
 しかし、上記の一人は彼では無い。その対戦者である。事実、観戦室にいるどの選手も、この大男ではなく、その人物へ心を奪われていた。
 それぞれが注目するその行方、ガルカ族の大声の最中、一匹の獣がのっそりと腰を上げた。その正体はミスラ族である。小柄な体格で知られるミスラ族の中でも、とりわけ小さな成りの。
 身に纏うのは同族の冒険者――しかも初心者が多く着用する装備。太陽と同色のさんばらに撒き散らした頭髪。ただ前を向く同色の双眸。彼女こそが最後の一人、登録番号458番ブレイズ・フレイムだ。

 誰一人として理解出来ていないであろう。なぜ彼女へここまでの危機感を感じるのか。この二人の風貌を見れば、勝負の結末なぞ火を見るよりも明らかである。が、心内では騒いでいる。警報が、けたたましく吠え続けているのだ。冒険者としての直感が警告するのだろう。「危険! 危険!」と。心根がぞっと震えるような戦慄が、ざあと心内を渡っていた。
 そのような、得体の知れないミスラ族の対戦者と相成ったガルカ族――ヘラクレーンは、二、三歩さきを行く彼女へ、悠然と笑みを構えながら続いていた。その真意が虚勢なのか、単純に鈍感なのか、それとも本心なのかは判らない。しかし、敵前で怯臆を露呈する冒険者なぞいるはずもない。対戦者であるこの男にとっては、胸中をざわめく戦慄は、武者震いであるのかもしれない。
 一方のブレイズは、後ろの大男へ興味が無いのか。表情を崩すことも、後ろを振り返ることも無かった。つまらなそうに、ただ前を向いているばかしだ。
 担当役員が踵を返す。その後をブレイズ、ヘラクレーンが続いてこの場を去った。ドアが閉まり、しんと観戦室が静まり返る。
 その観戦室へ誰彼の太息が渡った。先程勝利を収めた、初老のヒューム族のものだ。窓から顔を背けて瞳を伏せる。魔力の回復を早めるために瞑想へ入ったのだ。それを切欠とする風に、それぞれが動き始めた。
「グレーティア、同姓に興味があったのかい?」
 聞きなれた軽口が、グレーティアの闇色に塗りつぶされた思考へそよいだ。はっとして声の方へ向く。やはり声の主は隣人のガゼルであった。既に窓の外へ視線を遣っている。言葉は続いた。
「けれどもあれはやめといた方がいい。さしもの俺も、あんな怖え姉ちゃんはごめんだし」
 グレーティアは言葉を返さなかった。否――相応しいものが見当つかなかったのかもしれない。
 ガゼルの口元にはやはり常況の笑みが浮かんでいる。しかし、それは表面上のものであるように、グレーティアには思えた。薄っすら、知覚し難い苦みを含んでいる。参ったなといった風な。それが彼女の思考へ拍車を掛けた。
 再度闇が蔓延する。怯臆、焦燥、驚愕、不安――。正体不明の感情が思考を支配し、意志を略奪していく。が、彼女は、それへ屈服しなかった。一瞬であるが口元を緊束する。ガゼルへ向けていた瞳は体と共に窓へ向いた。その双眸には意志が蘇っている。
 ガゼルは、ちらりと横目でそれを確認すると、再び窓の外へ視線を遣る。何とか、あの化物の虜にならずに済んだみたいだな。内心で溜息を一つ。そして思考を始めた。
 ガゼルは、ブレイズの醸し出す気質へ違和感を感じていた。依然どこかで嗅ぎ取った記憶があるのだ。だが、その正体は思い出せない。そうこう思案している内に、選手の二人がリング上へ姿を現した。まあ、いいか――。ガゼルは意識も窓の外へ遣した。

◇  ◇  ◇

 リングに上がったブレイズとヘラクレーンは、対照方向へ行方を折った。ブレイズは右へ。ヘラクレーンは左へ。
 ヘラクレーンは、踵を返すと自慢の獲物を抜き放った。ぶうんと、豪勢に気勢を捲くって彼の両手に緊握されるのは、黄金色をした諸刃の戦斧――ルーンチョッパーである。肩幅程に開いた足。体は正面。シンプルな構えだ。
 が、それ以上にブレイズはシンプルであった。構えを取っていないのだ。ただぽつんと佇んでいるだけである。
 ヘラクレーンの笑みが更に深まる。その正体は意志。苛烈という名の意志である。何のつもりかは知らないが、そっちがその気ならばそうすればいい。こちらは、その愚かな性根ごと一刀両断に切り伏せるだけだ。ルーンチョッパーを緊握する両手へ更に力がこもる。
 片や怒気を撒いて準備万端といったガルカ族。片や何のモーションも見せずに佇むばかしのミスラ族。対照的な両者の様子へ戸惑うタルタル族の大会役員であったが、後者――ブレイズが動く様子も窺えなかったので、右手を差し出した。そして宣言する。Bブロック1回戦最終試合の開幕を。
「始め!!」
 刹那にヘラクレーンが弾けた。やはりアレスシリーズを装着しているのは、お飾りではないようだ。大柄な体格からは想像し難い速足である。一方のブレイズへ対応する様子は無い。弾丸のように弾けたヘラクレーンは、一呼吸の内に間合いを詰めると、振り上げていた得物を振り下ろした。リングごと叩き割ってやろうというような強勢の一撃が、真っ直ぐにブレイズを来襲する。
 どごおうん。メテオでも降り注いだかのような爆音が、会場を包んだ。観客達の歓声が、その下から突き上がって行く。が、その歓声がぴしゃりと止む。呆然とリング上の風景へ目を置いていた。
 自身達の予想を裏切ったのだ。小さなミスラ族が。制止されたと思ったのも束の間、先程よりも更に盛大な歓声が会場へ響いた。一刀両断されたはずのブレイズの姿は、まだそこにある。
 半身を傾けただけで躱したブレイズは、攻勢へ転じていた。切歯しながら、再び素早く得物を振り上げるヘラクレーンの懐へ、ひらりと身体を寄せる。ごもごもと口内で呟いた。
 精霊の化体が、まるで蝶々のように、彼の周囲をひらひらと舞う。右手をヘラクレーンの恰幅な腹部へ添えた。
 ヘラクレーンの振り上げた得物が、天空を指すのと、それは丁度同じくらいであった。

「燃えろ」

 これが、ヘラクレーンの最後に聞いた言葉である。懐で小さなミスラが、そう呟いたのを聞いた刹那、彼は火達磨へと化体した。
 添えられた腹部から侵入したそれは、一呼吸するのよりも早く、彼の全てを浚ってしまった。得物を振り上げた姿勢のまま、仰向きに倒れ伏すヘラクレーン。“エサ”を食い潰した炎は、何事も無かったかのように、姿を消してしまう。その“エサ”とともに。
 一瞬の出来事に唖然とする観客達。重苦しい緊張感が漂う。それは丁度、観戦室で、先程選手達が味わったそれと同様のものであった。観客達の中にも冒険者はいるが、ずぶの素人も少なくない。瞑目して小さく悲鳴をあげる者の姿もあった。
 何事も無かった様子なのは、その炎を放った主人の方も同一のようである。右手を離すのと同時に踵を返していたブレイズは、そのまま行方を出入り口へと伸ばしていた。その表情へ変化は無い。ただ、ただ、退屈そうなばかりである。
 結局彼女は、名前を宣言されること無くリングを後にした。只ならぬ戦慄を撒き散らして。
 担当役員は、こちらへ向かってくるミスラ族を呆然と眺めながら、思考していた。ヘラクレーンが、火達磨へと化体する直前に、一瞬だけ爆ぜたあの魔力。禍々しい魔性を帯びた、異様な精霊の気質。本当に、この女性が――? 出迎えた時と、何ら変化しない様子のブレイズ。だが、彼女との間合いが縮む度に、心音が膨れ上がっていく。どく、どく、どく、どく。
 担当役員は、彼女が横切ると、ようやく思考の呪縛から逃れる事が出来た。否、解放されたと表現すべきか。まるで彼女に掛けられた呪いであったかのようだ。踵を返す担当役員。歩き始める。正体不明の、不気味なミスラ族の背中を眺めながら。

 一方、観客席の最中に、一人だけ周囲と違う反応を見せる者がいた。
 丁度エリクスとノノが座る対象の辺りに、腰を下ろしているヒューム族の女性である。腰元辺りまで伸びる黒い長髪。あどけなさを残す顔立ちに、色白で細い輪郭。そして出で立ちは魔導士風。ガゼルの応援に来ていたベラ・メイデンハートその人である。
 一見では、周囲の同世代の女性達と変化は無い。怯えた様子である。が、彼女の場合は、その対象が異なる。展開された景色や、すでに姿を消したミスラ族へでは無く、ブレイズが詠唱を行った際に知覚してしまった、精霊の質であった。
 彼女は黒魔導士だ。よって、精霊の質量にも敏感である。ブレイズが呼応した精霊の気質は、ある獣人のそれとよく似ていた。闇の王の眷属たるデーモン族である。そして、それは自身の最中に流れる気質ともよく似ていた。でも、まさか、なぜ、ここに――?
 不安、焦燥、驚愕、怯臆。それらが戦慄となって、彼女の心身を震わせる。そんなはずがない。そうであってはいけない。そう思考しながらも、ブレイズが魔力を発動させた瞬間に、自身を閃いたその禍々しい感覚へ、彼女は心当たりがあった。そしてそれがもし現実であった時の事を思案すると、正気の沙汰ではいられない心地である。
 魔性の潜伏(イビルズ・サブリミナル)。それが、この呪われた運命(鎖)の名称である――。

――――――――――――――――――――Please read the seventh action if it is interested.
投稿日時:2007-10-19 16:46:45
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[003] 感想記事の投稿有難うございます。
投稿者:JR(名取) 投稿数:96
 まだ行ける、まだ行けると思っている内に気づいたら三回戦分にまで及んでいました^^; 
 確かに観客達も命懸けですね。本作でも記しましたがずぶの素人さんも少なくないので、そんな人達の方へ流れ弾が飛来した暁には、放送できない結果に;(放送?;)
 エリクスさんには、奮闘するグレーティアさんを、ハイテンションなノノさんの隣でじっくり、しっかり傍観してい頂きました。決勝戦の時も解説の方は頼んだ――(くどい)←失礼致しました。
 グレーティアさんの場合は、本編(Blanc-Bullet)の方でもアクティブというよりは、ライフル銃をしっかりと構えて並々ならぬ集中力と、ガゼルさんと銃口を向かい合わせる程の思い切りの良さが頭に残っていたので、こちらでも同様に静の戦闘スタイルで臨んでいただきました。アクションが少ない分、じりじりと詰まる間合いの描写や、心理描写がすごく難しかったです^^;
 ガゼルさんは手数と技の幅が広いので、すごく自由がききましたw; あれもいい、これもいい。でもこれすると、ああなっちゃうなあ、みたいな^^;(どないだ;) 
 当初ゼアのキャラクターは、ツンツンなミスラの狩人にするつもりであったのですが、あれ、ミスラばっかじゃね、という脳内司令室からの指摘が下りまして、本作のようになりました。自分でもこの二人のやりとりは凄く書いてて面白かったです。どこまでも正反対なこの二人。どこで、どうまかり間違えたか、一瞬ゼアが頭の中で勝ちそうになったことは、どうでもいい裏事情の一つです。(本当にどうでもいい;)
 ブレイズや一脇役諸君も気にいっていただいたようで、凄くうれしいです。
 ガトゥは当初ただの優男で終わらすつもりであったのですが、自分の中で悟りを開いたみたいです。ただこの優男、エリクスさんというナイトの存在を知らずに冒険に誘っておりますが、またエリクスさんの裏のスイッチが入らないことを切に願うばかりです^^;(やきもちでスイッチが入るような事はないでしょうけど;)
 決勝戦の描写もご期待に添えられるような作品が描けるように精進してまいりたいと思います!!
点数:0 点
投稿日時:2007-10-27 02:05:23
[002] 遅くなりました
投稿者:Bandit(目録) 投稿数:137
いやー相変わらず盛り沢山と申しますか、つーか今回は飛び道具が多いな!(笑)
しかし実際こういうアリーナっぽい場所での銃やら弓矢やらの使用はまさに観客も一体化、命懸けの観戦になるのは必至でしょうw
観戦に当たっては十分に回避スキルを上げておくよう警告が必要だw

エリクス君はお察しの通り、大声で応援とかは恥ずかしがってしないだろうなーと思います。
でもなんか格好いいこと言ってうまいことまとめてるのは、実はただの照れ隠しに違いないです。あれ、そのセリフの方がむしろ恥ずかしい?(笑)
ティアちゃんが最小限の動きに留めてるのは、そのまんま性格であり彼女のやり方だと思いますが(笑)。

あとガゼル君はやっぱサポ戦が似合いますな。サポ白とかナイナイw脳内麻薬で十分ww多分その気になったら挑発とかもするねwww
正統(?)エルヴァーンと不良(笑)エルヴァーンのやりとりも面白かったです。なるほどありそうだなぁ、と。

ブレイズ嬢の穏やかならぬ謎っぽさ(?)に加え、敗れていったワキヤクの方々もセリフや立ち居振る舞いによりそれぞれの味が出ていて、とてもナイスだと思います。
特にガトゥ君なんかは意外と爽やかでちょっと好き(笑)。

いよいよ残るべくして残った面々がこの後どうぶつかっていくか、非常に楽しみな所です。刮目して待て。
点数:8 点
投稿日時:2007-10-26 21:11:09
[001] あとがき。
投稿者:JR(名取) 投稿数:96

 昔の人の話によると、矢は一本では折れてしまうが、三本集めれば折れなくなるそうです――。

 というわけでお久しぶりです、JRです。今回はグレーティアさん、ガゼルさん、そしてオリジナルキャラクターのブレイズの三連戦をお送りいたしました。今回の作品で志したのは攻防のスピード感です。
 グレーティアさんは、勝負の瞬間の間合いに入ってからの攻防。ガゼルさんは、影縫で動きを制約されてしまってからの攻防。
 そして、この手の格闘大会ものといったら、小柄な人物が、大男を豪快に倒す図式だろうというわけで、ブレイズの対戦者にはガルカ族の大男を用意してみました。瞬殺です。例の如く。
 そしてついにやらかしてしまいました。登場人物だけでは飽き足らず、人様の作品の設定にまで手を――。しかも、それをオリジナルキャラクターに採用するとは正気の沙汰とは思えないぞ、作者よ! しかも観戦に来ていた当事者に説明役を任せるとは、何たる愚行;; とにもかくにも、ベラさん、真に有難うございました(平謝り;)
 そしてエリクスさん&ノノさんペアにもしっかり観戦に来てもらいました。グレーティアさんとの絡みはありませんが、代わりにノノさんと観客席から戦いの解説なぞを――(また他力本願か;)
 何やら危なっかしい獣が一匹放たれたBブロックでございますが、次回のよろしくでは決勝戦の一つをお届けしたいと思います。
 句読点の位置、段落の位置、表現技法や誤字脱字など、留意点がございましたら是非ご意見、ご指摘頂けると非常にうれしいです。
 次回は、ほんの小さな物語の続きを書きたいと思います。最後まで読んでくださった皆様方、真に有難うございました^^
点数:0 点
投稿日時:2007-10-19 16:47:42
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