| 灯り草 9 |
| 投稿者:Bandit(目録) 投稿数:137 |
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ジャンル:冒険
点数:27 点
コンシュタットの岩肌を背に、側面を削られた杭が一本立っている。 墓標だ。
草原の片隅に佇む杭の周りは、そこだけぽっかりと穴があいたように草が無い。 綺麗にならされた跡のある剥き出しの土。よく見れば、芽吹いたばかりの雑草が密かに頭を出している。 その間を、小さな虫がゆっくりと這っていた。 風が吹く。
少し高台にある墓標は、その主のかつての住み処であった教会を見下ろしている。 ナイフで丁寧に削られた側面に記される名は、その一部に黒い伝説を抱いて。 それはこの杭の下に、今まさに朽ち絶えようとしている歴史だった。 知る者とて少ない、ある約束された死の連鎖――
それをもたらした一振りの刃の行く末を今、墓標はじっと見下ろしている。 自分の下で安らかに大地へと帰していく、最後の所有主の代わりに。 そして引き継がれる物語の始まりを、ただ静かに待っている――
* * *
ルードと竜騎士の男が火花の散るような睨み合いを演じる向こうで、地下室の階段にたむろする男達は密かにに目配せを交わした。 一拍の時を置いて、す、と一人が動く。腰に短剣を帯びた、眼光の鋭い男だ。 特殊な革に裏打ちされた靴を履いている。まるで蛇のように足音というものを立てず、ルードの視界を巧みに避け、そのヒュームは影となって壁際を駆ける。 無音の靴底が、光る線をするりと踏み越え――
「――駄目ぇっ!」
響いた甲高い叫び声に、はっとルードは我に返った。 思わず声のした方を振り向く。いつの間にかヴロクダの鎌に迫っていた人影に、タルタルの少女がしがみついている光景が彼の目に飛び込んできた。 短剣の男はうるさそうに少女の襟首を掴むと、必死の面持ちの彼女を自分の足から無造作にひきはがす。あまりに無情に、そして軽々と翻弄されるその姿を見てルードが何を思ったのか。それは、当のルード本人にすら定かではなかった。 対峙していた竜騎士から剣をそらす。気付けばルードは短剣の男と、そしてフォーレの方へと身を躍らせようとしていた。 その隙を見逃せるほどに、竜騎士の体は愚鈍ではなかった。がら空きになったタルタルの背後を、剣の唸り声が追う。 「――っ!」 肘の近くに灼けるような感覚が走った。見事に防具と防具の継ぎ目。薄い装甲を切り裂いて達した痛みを、ルードは気力でねじ伏せる。 振り返ろうという選択肢は何故か無かった。背後に迫る刃に怯むことを忘れて更に前へと踏み込んだ足が、初めて細い光のボーダーラインを越えた――その瞬間。 「おぉっとぉ」 自分に向けて突っ込んで来ようとするタルタルを見て、短剣の男がひょいとフォーレを抱え上げた。細い溝の刻まれた短剣が素早く動き、その右手が少女の首筋でぴたりと止まる。
「……くっ――!!」 思わず噛み締めた歯の奥から、ルードが漏らした呻き声の理由はいくつもあった。 己の混乱に捕らわれ、男たちの一人が動いた事にすら気付かなかったこと。 相対する相手に軽々しく背を向けるなどという暴挙を犯し、あげく手傷を負わされたこと。 人質という陳腐な手段に対する嫌悪感。 そして何よりも、助ける義務もないはずのその「人質」を前に、自分の足が止まってしまった事に対する驚きと。 その停止によって、斬り込むチャンスを決定的に失ってしまった事。
それら全てをまとめて噛み締める奥歯が、ぎりっと嫌な音を立てた。 くそ、一体何をやっているんだ俺は――何もかもが失態だ――!
「は――放して、くださ――!」 「おやおや、まさか踏み止まってくれるとは思わなかったな」 フォーレを胸の前に抱える男が、にやにやと笑いながらそんな事を言う。 絵に描いたような王手に、出口である階段を固めていた男達が観客である事をやめた。緊張感なく腰をあげる彼らがゆっくりと背後を取り囲む音を聞きながら、同感だね――とルードは内心で吐き捨てる。口に出すだけの心の余裕はなかった。
少女もろとも、短剣の男を叩き伏せてしまってもよかったのだ。いや、何が何でもあの鎌を手に入れる為ならば、そうする事に何の不都合もない。なのに躊躇ってしまった。少なくとも、体は。 同族の情――まさかそんなものが、この自分にあったのだろうか。 理解できなかった。まるでいつのまにか自分の中身がばらばらに切り分けられて、好き勝手に動くそいつらを制御できなくなってしまったかのようだ。 首もとに迫る短剣に怯えつつも、自分を拘束する腕から逃れようと足掻くフォーレを易々と押さえ込みながら、短剣の男は愉快げに言った。 「はっは、やっぱ人質はタルタルに限るよなぁ。ちっけぇから扱いやすいし、力も弱ぇし」 「――っ! 野郎……!!」 また反射的に憤る。両の手に力がこもる。 嘲られたのは自分ではない、と理解するにも時間がかかっている。構うものか斬ってしまえ、あのタルタルがどうなろうが知った事か、人質などに取られた自分を恨むなら恨め――と頭で思っても、体は頑としてそれを実行しようとしない。まるで力を振るう為の器官をそっくり封印されたかのように。 突如として制御不能になってしまった「自分」。怒りにも似た焦りを感じ、それがまた新たな混乱を生む。行き場のない焦燥に叫び出しそうになる。 ――俺はどこか、狂ってしまったのか――
背後で複数、ちゃき、と鍔を弾く音がした。 必死に活路を探して思考を巡らせながらも、これまでか――という思いがルードの脳裏をよぎった、その時。
「やめて! やめてください!!」
首筋に短剣が食い込むのも構わず。 男達に向かい、フォーレが叫んでいた。
「お願いです、その人を傷つけないで! この鎌なら――もう、持って行って構いません! ですから、どうかこれ以上は――!」 「なっ――」
ルードが目を剥く。ふざけるな、と吠えようとした瞬間。 がつんと、後頭部に重い衝撃が走った。 急速に視界が狭まっていく。少女の悲鳴が聞こえたような気がした。 四肢から感覚が消える。前のめりに倒れ込みながらもルードは必死に顔を上げ、消え行く視界の中に漆黒の鎌を収めて。 そのまま、その深い色の中へと沈んで行った――――
* * *
――ねえ、お母さん。
「なぁに?」
――もし、もしもね。うちに泥棒が入って、だいじなお薬とかみんな盗まれちゃいそう、って時でも――目の前に患者さんがいたら、やっぱり助けてあげるのよね?
「ふふ、そうねぇ……でも、お薬や機具がみんななくなっちゃったら、その後に来る患者さんが困っちゃうわね」
――じゃあやっぱり、その時はお家に戻るの? 後の事を考えたら――
「いいえ、多分戻らないでしょうね。ちゃんとその患者さんの手当を終えないと」
――え。
「医者はね。何よりもまず、目の前の患者を見捨てちゃ駄目。自分の力で助けられる人がいたら、なりふり構っちゃ駄目なのよ。そうでなきゃ、誰も私たちに命なんか預けてくれないわ」
――ん……でも、その後の大勢の患者さんは……
「たった一人が助けられない人にね。まだ見ぬ大勢を、助けられる訳がないのよ。フォーレ」
――目の前の、たった、一人――――
* * *
巨大な跳ね橋が上がる。大空から滑り降りてくる飛空挺。 だらしなくくつろぐ不良仲間達の所に、息せき切って少年が一人駆け込んだ。
「なあなあ聞いたか、ベルーチの野郎がヘマしてパクられたらしいぜ! 総督の孫だかに手ぇ出しちまったって話だから、間違いなく当分出て来れねぇ! ざまぁねぇぜ!」 「へぇ、マジか? そいつぁ面白ぇな」 興味深げにざわめく仲間達に、少年は興奮した様子で更にまくし立てる。 「マジもマジ、確実な情報だぜ。おい、こりゃチャンスじゃねぇか? あいつが消えたって事はよ、職人通り界隈のシマは――」 「そうだな、ベルーチの後ろ盾がないとすりゃ、あのグループは今頃骨抜きだ。ヴェッキオだけじゃどうにもなんねぇぜ、あんだけ武器火薬がごろごろしてる職人通りで、結局大した事はなんにも出来てねぇチキン野郎だからな――」
あたかも新しいエキサイティングな遊びが転がり込んで来たかのように、少年達はにわかに色めき立つ。 全面戦争を仕掛けてやれ、いやいやまずは奴らの得物をかすめ取ってからだ――と、てんでに思い思いの事を喋り始める中、タルタルの少年が思い出したようにぽつりと言った。 「ねぇねぇ、そう言えばルードの兄貴、どうしたかなぁ。もうコンシュタットには着いてる頃だよねぇ」 あー? と、エルヴァーンの少年がそれを聞き止めると、ぶっきらぼうに言った。 「ま、兄貴の事だからうまくやってんじゃねーの。俺たちが気にするこっちゃねぇよ。それよりか今はベルーチのシマだぜ、面白くなって来たじゃんか」
きりきりきり、と跳ね橋が上がる。 水しぶきを上げながら水上で大きくターンした飛空挺が、逞しい唸り声と共に大空へと滑り出した。 様々な者達の数え切れない思いをわけへだてなく載せた船が、遙かジュノへと翼を向ける――
* * *
「もし――もし、大丈夫ですか、しっかり――」
肩をゆすられ、呼ばれる声を耳にして、ルードはうっすらと目を開けた。 硬い床に倒れている自分を感じ取る。何かがあった、という所まではすぐ判ったが、その理由が咄嗟に思い出せない。 視線を転じる。眩しい――細い天窓。それを背に心配そうな面持ちで自分を覗き込んでいるのは、無垢と呼ぶに相応しい白い服を身に纏った、タルタルの少女が一人――
「――――っ!!」
途端に全ての記憶が戻ってきた。ルードはがばと跳ね起き、真っ先に天窓の下を見る――無い。 流木のような板に突き立っていた漆黒の鎌は、もはや影も形もなかった。のっぺりとした壁だけが、ルードの見開いた眼差しを迎えて嘲笑う。 「くそっ――!」 一言そう吐き捨てると、ルードは手元に横たわっていた大剣を引っ掴み、外へと続く階段めがけて転がるように駆け出した。
廊下の床板を蹴り付けて走り抜け、荒れた聖堂へ取って返す。散らばった椅子や燭台を避けるのももどかしく、開け放たれたままの扉を抜けてルードは草原へと飛び出した。そこで彼が目にしたのは――
見渡す限りの、緑の大地。 薄雲の残る青い空と柔らかい太陽の光の中、海原を波が渡るのを真似るように、大きな風が草を撫でては消えていく。 その風の裾に煽られ、ふわりとルードの髪が逆立った。 転々と白い花に飾られ、ゆるやかな起伏を描く丘の上には、遠く風車の影。更に向こうには、のっぺりと白い素材で出来た古の建造物が遙かにそびえている。 その他には何もない――どちらを向いても人影ひとつ見当たらない、白々とした草原――
「ちっ……くしょおぉぉぉぉ!!」 絶叫と共に、灰色の髪のタルタルは両の拳で大地を殴りつけた。悔恨の呻き声が漏れる。 「あのヴロクダの……名だたる暗黒騎士の手にした、二つとない鎌だぞ……!! それを――」 あんな奴らに。 その価値もまるでわかっちゃいない、使えば消えてしまう金に替えるような奴らに。 強くなることの渇望を、根っこから否定して捨てるような奴に。 為す術無く、むざむざと奪われた。出し抜かれた――! 「ふざけるな――返せ! 返しやがれぇ!」 手のひらの下の雑草を引きむしり、ルードは虚空に向かって叫ぶ。しかしその声は風に散らされ、誰のもとにも届きはしない。 煮えたぎるような憤り。それと同時に、その場にぐったりとうずくまってしまいそうな、そしてそのまま大地に沈み込んでしまいそうな脱力感が、ルードを果てしなく苛む。 不意に目の奥が熱くなるのを感じて、思い切り歯を食い縛る――
どれだけそうしていただろう。 背後から、さく、と草を踏む音がした。 間を置いて、もう一度、さく。――さく。 ひどくゆっくりなその音は、おずおずと遠慮がちに近づいてくる小さな少女のそれだろう。 地に膝をついたまま動かない彼の、まだ短い影の手前で、その足音は静かに止まった。
「……何だよ」 呟くようにルードは言った。覇気が抜け落ちた瞳で、目の前の雑草を見据えたまま。 「心配しなくても、すぐ消えてやるよ。いいから――放っといてくれ――」
拗ねたような口調でのろのろとそう言い終わっても、少女の動く気配はない。ちちち……と、どこからか鳥のさえずりが聞こえた。 ああ――同情かよ。 そう思ったが、さほどの怒りも湧いてこなかった。 取り落とした大剣が、かすかに土にまみれている。何だかもう、どうでもいい――
「あの――」 しばしあって、ようやく少女が声を発した。 「ありがとう……ございました」 「……あ?」
予想外の言葉に、思わずルードは振り向く。俯き加減の彼女が、そこに立っていた。
「――私が、あの男の人に掴まった時……助けに来て、くれましたから」 ありがとう――繰り返して、少女はぺこりと頭を下げた。ルードは思わずぽかんと口を開け、しげしげと彼女を見やる。 「おま――」 どれだけおめでたいんだ、と言おうとして、彼はふいと口をつぐんだ。 まあ――あの場面でこいつの方に向かっていっちまった以上、そう思われても仕方ないのか。実際は短剣の野郎をどうにかするのが目的だったが――――……
――だった、よな……?
はたと、ルードは自問する。 どう考えてもそのはずだ。短剣の男に鎌を渡すまいと、あの時身を翻した。しかし、何か――どこかが、違うような。違ったような。 何故だか、考えれば考えるほどに胸の奥がむずがゆい。何だこれは―― 「――おい、お前、見てたよな」 その違和感を振り払うように、ルードは不機嫌そうに彼女に問う。 「最後に俺を伸した奴。どいつだった」 「え、えっと――」 そもそも、ここでこうして生きているのが何かの冗談のようだ。殺してしまっても良かったのに、わざわざ柄で殴って昏倒で済ませやがった。そいつはきっと―― 「あの、竜騎士だという方、でした……けど」 「はん――やっぱりな」 馬鹿にしやがって――とルードは呻く。 呻いても、対峙していた時の吐き気を催すような反発感はもうせり上がって来ない。あんな野郎、もう二度と目の前に現れるんじゃねぇ、と思うのが精一杯で。 それと同時に、4人の男達に対する敵愾心も、白い少女に対する苛立ちも。 あらゆるエネルギッシュな感情が、あの鎌の消失と共にどこかへ逃げ去ってしまったかのようで――
「な――何だよ」 草原を渡る風に吹かれるまま、むっつりと呆けたように座り込んでいたルードが声を上げる。傍らに立ち尽くしていた少女が、不意に彼の横に膝をついたからだ。 「あ、いえ……。すいません、ここ――お怪我、いいですか」 そう言って遠慮がちに彼女が手をかざしたのは、竜騎士の男が彼の肘近くに負わせた刀傷だった。目が覚めてからも痛みはずっと続いていたが、そんなものには慣れている。 彼の無言を肯定と受け取ったのか、少女はすっと目を瞑ると短い呪文を呟いた。ふわりと光が湧き上がり、熱水が蒸発するように傷口から痛みが退いていく。
「――?」 が、ルードは訝しげに眉を寄せた。そして尋ねた。 「おい、お前それ、間違ってねえか?」 「え……えっ? そんな筈は――すみません、痛かったですか!?」 彼の言葉に慌てふためく少女が、傷口を覗き込む。 「いや、治っちゃいるんだが――何か妙に」
あったかいぞ。
そう言おうとして、ルードはまた口をつぐんだ。 こうも心地よい治癒魔法を、これまで経験した事がなかっただけだと気付いたのだ。
真っ黒い闇の中で。 かりそめの仲間達から飛んでくる治癒の魔術は、ただの燃料だった。 繰り返し繰り返し襲い来る敵をなぎ払う為だけの、可能な限り剣を振るい続ける為だけの、消耗品のような燃料だった。 なのに今は。まるで冬の寒い夜に潜り込む、ふわふわに整えられたベッドが心に浮かぶ。 こういうものが、自分を癒す事はないと思っていたのに――
「……ふん」 どっかりとあぐらをかき直し、ルードは無意味に口を尖らせた。 「さすがは腐ってもタルタルの白魔道士さま、お上手なことで。適材適所ってやつだよな」 いかにも皮肉げな彼の言葉に、しかし少女は顔を曇らせる。 「そんな――そんな事、ないです」 吐き出されるような小さな声。照れや謙遜ではない、心底からの否定がそこにはあった。ちらりとルードは彼女を横目で見る。
「結局……何も。なあんにも、出来ませんでした――」 溜息のような、歌のような。 静かな言葉を零す少女の視線は、どこか遠くを見ていた。 少し高い丘の上。茶色い岩肌に遮られた一角へ、哀しげに語りかけるように。 「ただ――誰にも、傷付いて欲しくなかっただけなのに。痛い目や、辛い目に遭わずにいて欲しかっただけなのに――結局あなたは、傷を負ってしまって。どうして……どうして、上手くやれないんでしょう」 「――――」 「タルタルだから――よく言われます。けど、そんな事はどうだって良かった。関係なかったんです。ただ、人の助けになれればそれで良かった。なのに――いくら魔力ばかりあったって、こんなんじゃ――私、何の役にも立たない……」
漠とした草原が、日の光の下で優しく波を描く。 無尽の野草にそうするように、風は小さな二人のタルタルを優しく撫でては、いずこへともなく吹き去っていく。
ルードは、空を仰いでいた。 鎧を脱いだ訳でもないのに、変に体が軽い。 何故だろうと思ったが、もうあれこれ考えるのには疲れてしまっていた。
「これから――どうするんだ」 気付けばルードは、そんなセリフを口にしていた。それは彼女に向けてだったかもしれないし、そうではないかもしれなかったが。 「え――?」 うなだれていた少女は、驚いたように顔を上げる。が、また遠くの高台を眺めるようにすると、ぽつりと言った。 「新しい道を……探さなければ、いけません」 「ん――?」 ルードは仰向けていた瞳を戻し、少女のあどけない顔を見た。急に姿勢を変えた為だろうか、ふっと呼吸が苦しくなる。 「護ってきた鎌も、奪われてしまいましたし――いえ――始めから司祭様は、そうするようにと仰っていたんです。お前には託さない、新しい生き方を探せ、と――」 「ああ……」 そう言えばそんな事を聞いたな、とルードはぼんやり思い出す。それはつまり、この教会から出て、世間を回れという事だろうか。 ひと呼吸ほど考えて、ルードは言った。 「お前、まだ行ったことのない国はあるか」 唐突な問いに、え、と少女は首を傾げる。 「あ……その、生まれ故郷のウィンダスと、あとこの土地以外は――全然」 「何だ、本格的に箱入りかよ――って、しかも同郷か」 ぼりぼりと、ルードは頭をかきまわす。そして言った。 「しょーがねぇ、一緒に来るか」
「え……えっ?」 今度こそ真剣に驚いた表情で、少女は素っ頓狂な声を上げる。 「そんな……あの、どうしてですか、私ならその、一人でも大丈夫――」 「あのな、そこまで世間知らずで、いきなり一人でふらふら世間を放浪する気かよ。先が見えるね。あっという間にそこらで野垂れ死ぬか、身ぐるみ剥がされてお終いだ」 う、と少女は言葉に詰まる。しょーがねーなー、という風情で目を細めるルードは、そのまますっと瞳の色だけを冷やして続けた。 「それとな、あの鎌――俺は諦めてねぇぜ。この世にある事を知ったからには、何年かかってもいつか手にしてやる。だから」 言いながら、漆黒の瞳にほんの僅か蘇る、いつも浮かべてきた不敵な表情。
道。 大丈夫。自分は見失っていない。諦めてもいない。 意味なんてものはこれから見つければいい。いや、そんなものなくたって構いやしない。 ただそうしたいからそうするのだと、望みとはそういうものだと、目の前の少女も言ったのだ。 だから。どんなに険しかろうが、日の光の届かない闇夜のごとき悪路だろうが――きっとあの黒い三日月を手にして、この世の最強のひとつも謳ってやる――
「だから、お前があれの行方に責任を感じるってんならな、俺について来るのが一番の近道だぜ。違うか?」 自信ありげにそんな事を言うルードの顔を見つめて、少女は――フォーレは、ぽかんと口を開けていた。 ――今後の身の振り方。奪われた鎌の事。奪われていた未来の事。そこに突如として現れた――道連れ。 自分の手に余る色々な事がぐるぐると頭を回って、はいともいいえとも言えずに少女は瞬きを繰り返す。 ただ――違うか、と問うた時の彼の表情は、少し世間にスレた雰囲気を湛えながらも、まるでやんちゃないたずらっ子そのもので。 ふっと、フォーレはルードの腕に戸惑う目を落とした。簡素な鎧の奥で、治りかけた刀傷が覗く。そして、遠い何かを思い出したように、ゆっくりと――
「どうして――」 「あ?」 「どうして男の子は、そんなに――チャンバラごっこが、好きなんですか――?」
一拍の間。ひゅう、と軽い風が吹く。
「くっ――はは! あっはっは!」 怒り出すかと思いきや。その呟きを聞いたルードは、弾けるように笑い出した。 「はっは、チャンバラごっこか――――く、ふ――違いねぇ! は! あっはっは!」
またおろおろと狼狽え始めるフォーレをよそに、おかしくて堪らないという風に笑い続けながら、ルードはごろんと大の字に寝転がった。 ばさっと音を立てて、柔らかい下草が彼の小さな背中を受け止める。 子供のような高い笑い声が、まるで道しるべのように草原を流れていく。
そんな二人を間近に見守る、小さな白い花があった。 釣り鐘のようにふっくらとした花びらを下げ、そよぐ風に身を任せる花。 その中に隠れる蜜は、夜ごと草原を彷徨う小さな光虫を招き寄せる。 そうして月のない闇夜には、その花はまるで星のようにそっと灯っては、冒険者の足元を照らして揺れるのだ。
ウィンダスの至る所でランプとして模され、時に暗闇に沈む者を優しく照らす、白く愛らしいその草は。 人々の間で「灯り草」と呼ばれ、親しまれている――
End |
| 投稿日時:2007-09-11 23:02:46 |
| [006] 遅ればせながら感想記事の投稿失礼いたします。 |
| 投稿者:JR(名取) 投稿数:96 |
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まず最初に物語の完結おめでとうございます。そしてお疲れ様でございました。タイトルに書かせていただきましたが、遅ればせながら感想記事の投稿失礼いたします。 グッジョブ、竜騎士さん! 次に会った時は宿敵と書いてともと呼ぶ関係になれているのでしょうか。ルードさんの場合、会った瞬間に心とは裏腹(?)に皮肉の一つでもぶっ飛ばしそうですが^^; そして二人の男はまた一人の少女を巡って――(違うから、全体に的に違うから;) こういう終わり方もあるのですね。ここでドラマチックにフォーレさんを救出しつつ鎌を手にしていた暁には完全に違う物語になっていたのでしょうね。なんだか颯爽とした後味のいい終わり方であったように思います。 次回作の物語も楽しみに待ち焦がれております。最後にもう一度連載完結お疲れ様でございました。これからもがんばってください^^
点数:9 点
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| 投稿日時:2007-10-19 22:34:36 |
| [005] なーれっそめ! なーれっそめ! |
| 投稿者:ウォ〜マ〜(--) 投稿数:-- |
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バリバリ一気に読ませていただきました、灯り草フォーエバー・・・・何か単語が付随してるな。とりあえず気にしない方向で。
いやー、久しぶりのルード坊とフォーレちゃん。やっぱ坊は最初からやんちゃやんちゃしてんじゃねぇか!w しかしまぁ、今回は敵サイドにも何やら面白い御仁がキャスティングされてましたね。ミカンw
しっかし、なんでかなー・・・・タルタルですよね? チョコボに乗って剣にグチたれて、教会を荒らしまわってドア蹴り開けて・・・・ルード坊なんですよね、やってるのは? なんで不自然なほどカッコいいかなー、憎い。 ウチの子供らはタルタル率が異様に少ないくせにヘタレが多いし、あーもう、理不尽だ・・・多分俺の脳味噌が。
というか、やはりBanditさんの、戦闘シーンが絡んだ作品を見てて毎回思うのが、「一瞬の流れ」を拡大化させた心理描写の圧倒的な存在感なんですよねー。セリフを挟んだだけのシロート物書きとは違った、何か、マトリックスの映画みたいにその部分だけ局地的に時間の流れが遅くなる、そういう・・・・上手く説明できないけど、そんな何か(何だ)。 羨ましいったらありゃしねぇ!
いやー、敵サイドにも事情がありますよ的な流れは見てて面白いですね。戦え、己が正義のために、みたいなノリ(なんか違う)。
とにもかくにも、9話続けて読んだって気がしませんでした。良い意味で。 初見の人が読んで疲れない文章を書くのは、俺としちゃ難しいモンなので、無いものねだり的に羨ましがらせてください。
次なる作品に期待に期待を重ね、ブラボーの一言。拍手!
点数:9 点
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| 投稿日時:2007-10-02 23:12:06 |
| [003] 正直、そのままにするには惜しいと思ってましたw |
| 投稿者:Bandit(目録) 投稿数:137 |
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前回頂いた感想と併せてお礼を。
例のリューサンは、勢いとは言えぼちぼち味のある設定を作ってしまったので、ここで噛ませ犬(?)的に使い捨ててしまうのは勿体ないなぁとは感じておりまして。 しかし彼をここで更にガチで絡ませてしまうと、新規参入で面白いだけに(笑)きっと私が舵取りに失敗して、最後には誰の話か判らなくなってしまう危険性を察知いたしまして。 とても気に入ってくださった方には申し訳ない限りですが、さっくりとご退場いただいてしまった訳であります。 もっと私に筆力があれば、より彼の存在を満足に使い尽くしてあげられたに違いないのです。ああ勿体なや。
さて追伸にてご要望いただいた、某両氏の馴れ初め編ですが。 実は書いたのがすでに3年ほども前であり、なんかもう言われて読み直したら案の定壮絶に拙いというかヘボいというかでもんどりうってしまいまして(笑)。 でも逃げちゃだめだ逃げちゃだめだという呪文をつい最近聞いたばかりなので、思い切って晒させて頂きます(笑)。 前編:http://www15.atwiki.jp/corelli/pages/21.html 後編:http://www15.atwiki.jp/corelli/pages/20.html で、こちらにブチ込んでおきました。本当に心底恥ずかしいので、こそっと流し読んで無言で頷いて頂ければ幸いにございます。 逃げちゃだめだと言いつつ、最低限の文章直しはしてしまったのは秘密(笑)。
ではではー。
点数:0 点
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| 投稿日時:2007-09-17 13:56:02 |
| [002] 道の途中で見つけた灯りは |
| 投稿者:さそ(下級職人) 投稿数:50 |
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形としてルード君が完敗するのは予想外でした。 「手に入れる」ことでも「見つけ出す」ことでもなく、「追いかける」意味を持っての二人のリスタート。わお、主役が負けてしまったにも係わらず、涼やかで清々しい幕引きに心が綺麗に洗われました。 とりわけ最後の一節にやられた。闇夜に浮かぶ灯り草に見入る白と暗黒色の二人が見えて――あー、シチュエーションは昼間でAFも着てないのに目に浮かぶ幻想的な光景。いつもの面々との出会いや、実際にその瞬間を迎えるのも灯り草が導いてくれたものなのでしょうか。それを言うなら今回のことだって。うーん素敵です。大好きです。
名無しのリューサンも、何と言うか描写をあそこで切ることによってリアリティと強烈な存在感を残したと言うか。彼にとっては通過点でしかなく、立ち止まったり気に病んだりする必要も、また必然性も乏しいわけで。そういう人が一人いるだけで物語の厚みが大幅に増していますね。ここから始まる物語(=世界)だけに、その広さが実感出来るようで胸に迫ります。
Banditさんのヴァナ・ディールに新たな一面と奥行きを添えた連載、お疲れ様でした。そしてありがとうございました。 また次の作品を拝読出来ることを心より楽しみにしております。
以下蛇足。 個人的な希望としては、某猫シ女史とエル黒氏御両名の馴初め編が読んでみたいと言いますかその(笑)。 ルルヴァードで概観が明らかにされた分、細部に関する妄想が止まりm(以下自粛)。 勝手なことを書き添えて、感想の締めとさせて頂きます。ではでは〜。
点数:9 点
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| 投稿日時:2007-09-16 13:55:33 |
| [001] 作者コメント |
| 投稿者:Bandit(目録) 投稿数:137 |
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はい、そんな感じで「灯り草」全9話、終了いたしました。 お付き合い下さった方にはひたすら感謝感謝の一言です。 でもこのお話、最初は全3話くらいの予定だったって、聞いたら君は信じるかい――?(笑)
いやぁ最初は間違いなく短編のつもりで始めたわけなんですが、今の私がそのままでやるともう身も蓋もないというか、本当に脈絡の薄い話になっちゃうなーという事に遅ればせながら気づいたりとかしまして。 結果、馴れ初め系としては異例の長さになってしまいました。正直やりすぎ。 あとまぁ、片方が悪役っぽくて地下から出て和解してエンド、という段取りが某もう一つのカップルの馴れ初めと酷似していると気付いたときの絶望感はまさにHNM級。 ああワンパターンは最も忌み嫌う所なのに……ッ! 何の呪いだこれはッ!
えー、そしてこの後この二人がどうなるかはご想像にお任せ、と言いたいところですが、まぁ遠からず例の連中と知り合ってパーティーになっちまいます(笑)。 ちなみに突発脇役竜騎士くんのその後は放ったらかしです。投げっぱなしです、超スルーです(笑)。 まぁ頑張って稼いで念願成就してくれることを祈りましょう。えらい他人事だなおいw
ではでは、とりあえず今回はこんな所で。 また機会があったら作者としてお邪魔させて頂きたいと思います。でも今のところ構想ナシ(笑)。
読んで下さった方、本当にありがとうございましたー。
点数:0 点
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| 投稿日時:2007-09-11 23:04:11 |